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ホントの唄(仮題)
第10章 想い、知らされて
目指した先は、北アルプス。登山口のあるバスターミナルに到着した頃には、もうすっかり陽も高い。だが既に標高2500Mを超えると、肌を撫でる風は殊の外涼しかった。
良く晴れ渡った天候は、最大の救いである。そうでなければ、この無謀な登山初心者を山が迎え入れることはなかろう。
「オイ、真。その恰好じゃ駄目だ。ズボンを履け。あと上も――」
「えー、だって。それだと、ジャージしかないじゃん……」
「ジャージで、なにが悪い」
「あーあ、だからさぁ。それなりの服買いに行こうって、言ったのに」
「山ガールか、お前は! 恰好なんてどうでもいいから、とにかく着込んでおきなさい」
まるで、お母さんのような口調だな……。
不平を漏らす真を適当に宥め。レストハウスで遅めの朝食を済ませると、俺たちは幾つかある道より二時間強で山頂を望めるルートを選び、山道を登り始めていた。
砂利を引きつめられた登山道は、初めに俺たちを緩やかな傾斜で迎え入れてくれる。広く開けた視界が、とても開放的だ。
行く先には幾つかの登山者のグループが、各々のペースで頂を目指しその歩を進める。比較的楽なトレッキングコースであることから、年配者の姿も多い。既に下山して来る人々は、御来光を目的としての登頂であろう。
ともかく、胸に吸い込まれる空気が違っている。山々の雄大な景色を目にしていることもあり、次第に清々しい気分になるのも自然なことであった。