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ホントの唄(仮題)
第12章 高崎家の人々
だから、俺は真の前で逃げてはならない。それが俺の勝手な思いに終わるのかは、この先の成り行き次第であろう。
今だ言葉も発せずに、視線さえ合わせようとしない、この一族の長がそこはかとなく不気味ではあるが――ともかく。
さて、なにを話そう……か?
俺の目的は、既にこの時点で半分は果たされている。真に「逃げるな」と言った手前、自分のことを棚に上げていることは、やはり大人として居心地が悪く。それで二十年も前に「逃げ出し」ている、自分の人生に向き合おうとし、現在実際にこうして向き合っていた。
だから親父の顔を見た瞬間に、俺にはある程度、事を終えた気がしている。別に関係を修復しようなんて思いは、そもそも俺の中にはないのだし。すなわち、これから先はなにを話すのかというより、臆せずに話せるのか、という点が肝要に思えた。
俺がそんな風に考えていた最中――。
「あの――大変に恐縮なのですが、先にちょっとだけ、ご挨拶させていただいても――?」
そんな風に言ったのは、この座敷の中で俺が唯一、初見であった人物である。控え目な様子で一同を見渡してから――
「お義兄さん、初めまして。私――拓実さんの妻の香苗(かなえ)と申します」
彼女は俺に、初対面の挨拶をしていた。