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ホントの唄(仮題)
第12章 高崎家の人々
高崎律子(りつこ)は揮市の嫁であり、こちらとは俺との面識があった。当時はまだ家族として、兄貴の結婚式にも出ていたことだし……。
「それは、だって――」
そんな訳で見知ってはいるだけに、俺としてはコッチの方が断然苦手である。彼女が口を挟んだ理由を見れば、その辺りはわかってもらえるのかもしれない。
「これから何をお話になるのかは、存じ上げませんけれども。現時点では家族でもない他人であるのだから、御近づきになる必要もないと思うの」
「お義姉さん、いくらなんでも――そんな言い方って」
「あら、気を使うことないわよ。ねえ――裕司さん?」
こちらは熟練の四十半ばとしての女性の貫録を醸し出すように、その社長夫人は末席を流し見るようにして俺に向かって訪ねてきていた。
「ハハ……ええ、構いませんよ」
この兄嫁、相変わらずきっついなぁ……。そんな風に話を振られたって、とりあえず俺は苦笑するしかないのである。
仮にもこの家に嫁いだのならば、彼女たちもまた高崎家の一族である。だから、その家が嫌で飛び出した俺にとっては、本来何処まで行っても相容れない人々、であるようにも感じてしまう。
その様に暫し、外野(失礼だが)とのやり取りに気を取られていたから、仕方ないいえば、そうなのかもしれない。この座敷に入って以降はずっと、誰と話していてもその動向には留意していたのだが、この時は完全に油断が生じていたのだ。
まるで、その一瞬を狙ったかの、如く――
「裕司――お前、今はどうしている?」
俺の親父――高崎仁造(じんぞう)が、満を持して口を開いている。