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ホントの唄(仮題)
第13章 別れは劇的ならずとも
「……」
その背中を、思わず抱きしめたくなった。言えないと言った筈の言葉を口にして、全てを滅茶苦茶にしてしまいたくなった。
けれども、それが互いの為とならないことは、出会った当初から決まりきっている。
一つ、物語というもの。それが、人の常識を覆すものであるとしたのならば、ある意味ではその『決まり事』を破るのも、それはそれで一興とはなろうか。
だが、俺は大人として――ありふれている只の大人として、それを行うことを、やはり止める。勇気がないとか、そういう話ではないのだ。
そして、これは――俺の生き方という物語である。敢えて恰好をつけて、言うのであれば――。
今、俺の傍らで真が笑ってくれているのは、この関係に期限が限られていたから。それは間違っているようで、至極正しいものの見方であろうと思っている。
そう、俺は最初から、それを諦めなければならなかった。
だからこそ、真が魅力的である程に、俺は困惑している。その天真な姿に心を揺るがされる度に、覚悟を大きく持つ必要があった。
「ホラ――真」
寝そべった背中に、手を伸ばし声をかける。もう困らせるなよ、とそんな気分で。
しかし、とっくに心を決めている筈の俺を、またしても彼女は惑わせるのだ。
「あっ……!」
伸ばした腕を取られ、前のめりにバランスを崩した俺は、ベッドの上に倒れる。その拍子、仰向けとなった真の胸に、顔を埋める。
「こらっ、なにを……?」
そう言って、顔を上げようとした俺を強く抱き留め、真は囁くように言うのだ。
「ね――もう一回、抱いてよ」