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ホントの唄(仮題)
第14章 エピローグ
「冷たい麦茶でも、お持ちしますか?」
「あ、お願い」
中島さんが出て行くと、事務所には俺一人だ。
事務員の紹介以前に、俺が「社長」なんて呼ばれている件。それについて少し、話さなければならないのだろう。
とは言ってみても、そんなに難しい話ではなく。要するに俺が社長なのは、会社を起こしているからに他ならない。
先に触れた狭い事務所と、まだまだ設備の行き届かないオンボロの工場。工員五名、事務員一名の小さな組織――それが俺の会社だ。
当初は銀行から金を借り、一人で始めようと考えていた。しかし、そうして準備を進めていた時、俺はあることを思いついてしまった。
俺が一緒に仕事をしようと声をかけたのは、斎藤さんを初めとするかつての同僚たちであった。前の会社をリストラで追われた彼らは、快く俺の申し出に応えてくれている。
そう。以前、新規事業を失敗していることは、少なからず俺の中にも悔いとして残されていた。ならば、当時の仲間のスキルと経験を生かし、もう一度、自らの立ち上げた会社でリベンジという訳である。
もちろん苦労も多いが、その分やりがいは以前の比ではなかった。
が、そうと決めた時。俺を悩ませたのは、やはり資金である。単独でやるのなら、ある程度のリスクは覚悟するが、人を雇うとなれば当然そうはいかない。
そうした時――。