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ホントの唄(仮題)
第2章 緊急モラトリアム
ち、畜生……しかし相手は著名人とはいえ、まだ二十歳そこそこのガキ。ここは大人として、俺が肝要な心で応じなければなるまい。それにしても……。
俺が苦渋の表情を隠さず、一人激しく葛藤していた時である。
真はキョトンとした顔で、実に軽々しく俺にそれを訊ねた。
「オジサンは、何してる人?」
「え……?」
「今日は平日だよ。会社とか、行かなくていいの?」
「そ、それは……」
問い詰めていたのは、俺の方だった筈。だのに、たった一言二言を以って、完全に攻守は入れ替わってしまった。
「実は然る事情があって……だな。勤めていた会社を、昨日……」
「昨日?」
「や、辞めた……」
「じゃあ、今日からは?」
「み……未定」
「つまり、それって?」
端的な言葉で的確に与えられる、精神的ダメージ。それを振り払らわんとしたのか、俺は敢えて大声で答えていた。
「ああ、今の俺は――無職だ!」
初夏でありながら、この身が凍りつくまでに、寒々しい。冷静に考えれば、この女に正直に教えてやる必要があったのだろうか……?