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ホントの唄(仮題)
第2章 緊急モラトリアム

否――断じてココで、劣情に身を委ねてはならない!
俺は両手で頬をパンと張り、それを肝に命じた。
そんな俺をどうか、紳士だなんて思わないでほしい。言わばこれは保身の為。中年男に自然と備わっていた、慎重さがそうさせているに過ぎなかった。
真、の――人気歌手・天野ふらのの失踪は、既に世間を騒がせ始めている。その時の人をかくまったのが、無職の中年(何度も言わすな)であったことが、仮に世間に知れ渡ったとしたらどうだろう。
マスコミは一体、その事情どう伝えるだろうか?
おそらく、ロクな事にはなるまい。少なくとも、俺にとっては『百害あって一利なし』だ。
最悪のケースでは、誘拐の容疑でもかけられかねないと考えるべき。ついでにストーカー扱いの、オマケつきで……。
その場合、肉体関係を結んでいたとすれば、後ろ暗いことこの上なしなのだ。たぶん俺は自身の身の潔白を、声を大にして世間様に訴える術を失う。
そうなれば、俺の人生は――ゲーム・オーバー。
すなわち俺は真に、絶対に手を出すことは許されないのだ。

