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第3章 異常な日常の場面で

　おそらく真は、だからこそ悩みの中にいるのかもしれない。天野ふらの――その名が肥大すればするほどに、真自身とのギャップに苦しんでいる、と？


　そう感じたことが、仮に正しいとするならば……。



「しかし、アレだな。その帽子だけだと、どうも変装としては弱いらしい」


　俺はふと、話題をガラリと転換していた。


　俺が買ってきた地味な服装に身を包んでいても、真の発する芸能人オーラは消えてはくれない。薄々そう感じてはいたのだが、実際にあんな場面を見てしまえば、その点は考え直さねばならないみたいだ。


「マスクやサングラスも、必要になるか。いや、だが……フル装備にすればその分、却って怪しさは増すだろうし。うーん、どうしたものか……」


　だが――


「私……迷惑だよね？」


　ポツンと呟かれたその言葉は、またしても真らしくないもの。

　そう感じた俺は、わざと茶化すように言った。


「今更かよ！　そんなの、迷惑に決まってるじゃねーか」


「ああっ、ヒドい！　そんな言い方、なくない？」


「ハハハ」


「なんで、急に笑い出してんの――？」


「やっぱ、似合わないんだよ。さっき、みたいなのは。少なくとも俺にしてみれば、今の大声の方が、しっくりくる。甚だ短い付き合いではあるけどな」


「オジサン……」


「迷惑だとか気してたら、また知らず知らずに自分を飾り立てることになる。そしたらホントの自分なんて、益々見失しなっちまうんじゃねーのか」


「そっか……そう、だよね」


　そうして頷いた真は、ようやく屈託なく笑った。


「じゃあ、ドンドン迷惑かけてあげるから。覚悟してね――オジサン！」


　しまったな……ちょっと、調子に乗せすぎたかも。


　俺は期せずして、笑い顔が引きつってしまった。