この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ホントの唄(仮題)
第3章 異常な日常の場面で

陽が傾き夕刻になると、俺はキッチンに立ち夕飯の支度を始めた。この日のメニューは、何ら工夫もない普通のカレーと彩りも適当な気まぐれ的サラダのみ。
長年一人暮らしの俺ではあるが、料理の腕前は推して知るべし、といった処か。必要に迫られて作るだけであり、それを愉しむような心のゆとりは一切持ち合わせてはなかった。
一般女子の羨望の的らしき、料理自慢のイケメンタレントとは比較対象ですらなかろう。
俺が調理する間。真はと言えば、至極暇そうに本棚の辺りを頻りに物色していた。何か変な物でも見つけやしないかと、俺はその動向をチラチラと監視する。
すると暫くして、数年ぶりに稼働したオーディオが、懐かしいメロディーを奏で始めていた。どうやら棚の奥で、真が物色していたのはCDだったのようで……。
十代から二十代にかけて俺がハマったバンド――その代表的な楽曲が、心地よい適度な音量で部屋の中を響き満たした。
「ふーん……オジサンにしては、良い趣味かもね」
と、真は膝を抱えて座り、音色に耳を傾ける。
「このバンド――知ってるのか?」
「もちろん、名前くらいは。あ、でも――ちゃんと曲を聞くのは、これが初めてだなぁ」
「まあ、そうだろうな」
一部では今だ伝説視される件のバンドも、今世紀初めには既に解散。如何に同業の畑とはいえ、世代的に真が詳しくないのも無理はなかった。
鍋の中の具が、程好く煮込まれるまで。
「――♪」
曲に合わせた真の微かな鼻歌は――とても耳障り良く。

