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ホントの唄(仮題)
第3章 異常な日常の場面で

髪を拭きながらリビングに戻った俺は、テレビを観ている真の背中に向けて言う。
「おやっ? まだ寝ないのかな」
それが、やや白々しいセリフとなったのは無理もなく。
「眠くないし。だって、まだ十時前だよ」
真に教えられるまでもなく、俺自身がまだそんな時間だとは思っていない。
それは何も当面、早起きの必要がないから、という訳ではなかった。俺は普段から、とかく早寝するという意識に欠けているタイプ。普段の就寝時刻は、概ね深夜の二時過ぎ。きっと次の日を迎えることが、潜在的に嫌なのだ。
劇的に変わることのない日々の流れに、無駄と知りつつも抗っていたのかもしれない。ある意味では、とても子供じみている。周囲の人々が何の疑問もなく生活しているように見えて、そんなことに何となく違和感を覚えていた。
まあ、そんな風に考えてしまう原因は、やはり。四十にもなって、一人でいるからに他なるまい。先のことを鑑みれば、何かを変えなければ、と心の片隅では常に思っていたのだ。
その様な中年の戯言に、誰も聞く耳は持つまい。だから、それはいいとしても……。
今、俺の暮らしにも、劇的な変化というやつが訪れていた。それを俺が望んだつもりは、ないのだけれど……。
「この後――どう、するの?」
意味深な言葉を囀り、真は俺に微笑を向けた。

