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第3章 異常な日常の場面で

「違う……？」


「うん……」


　真は軽く頷きながら、床に手をつくと身体をじりっと俺の方に寄せた。

　そして、囁きかけるような音量で、何処か艶やかに言葉を連ねる。


「私って、さあ。男女のことを『好き』とか『嫌い』とかって、言葉に置き換えるのが苦手。ううん、置き換えられるものじゃないって、そう思ってるの。もっとずっと、感覚的なものにしていたいんだ」


「へ、へえ……」


　俺は気のない返事をしながら背を後ろに傾け、詰められた分の距離をまた開く――が。


「だから――もっとわかり合いたいと思える人なら、身体を重ねることを迷ったりしない」


「うっ……だが、それでは……？」


「うん。関係が微妙になることだってあるよ。私が求めていたものと、何処か違ってたりしてね。でもそれすら、触れ合わなければわからないから」


「俺のことなんて……わかった処で、高が知れてる」


「ほら――そうやって。オジサンは、包み隠す。だから私は、余計にそれを見たいって思う」


　そう言った真は、俺の身体を跨ぐように両手をつき。

　もう、すぐそこにある顔――



「だから――いい、よね？」



　その唇で、俺に問うのだ。