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ホントの唄(仮題)
第1章 一人と一人
会社を辞めるに至るには、もちろんそれなりの事情はあった。俺が亜樹に話したかったのは、実はその部分ではあったが……。
彼女はそれを聞こうとはしなかった。職を自ら失いその先の食い扶持すら持たぬ中年。そんな俺を彼女は、気持ちいい程にあっさりと見限ったのである。
しかし、それで亜樹を責める資格は、俺にはなかった。それについては、さっきも言った通りである。彼女の若さと奔放さを、俺が都合良く感じていたことは否めない。
寧ろ無職となった俺を突き放した彼女の方が、その点では誠実であるのかもしれない。もしかしたら、俺との将来を考えていたからこそ……。
いや、それはないか……。
亜樹が何を考えているのか、最後までよくわからなかったが。ともかく、これで俺たちの関係も終わっているのだ。
四十で……独身……無職となり……女にもフラれて……完全に……孤独。
「……」
ピュウっと吹き抜ける夜風が、余計に冷たく感じられる。