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第8章 筒井筒【陽炎】
「旦那様、いつも格別のお心遣い、ありがとうございます。親が喜びます。」

座敷に座り、手をついて深々と頭を下げるひとりの男。

「いつもよく働いてくれるからね、せめてもの報いだ。それから、あの話もよく親御さんに相談して、考えておくれ。」

「身に余る光栄、良く良く相談したいと思います。」

男は一段深く頭を下げ、顔を上げるとしっかりと主の顔を見た。

日本橋でその名を知らぬ者はない大店、薬種問屋、但馬屋の手代、市八、十八歳。

十の歳からこの薬種問屋で奉公を始め、今年で八年になる。

小僧と呼ばれる下働きの頃は、先例に倣い、名前の市の字を取って市松、と呼ばれたが、十八になって手代に昇格し、名を改めた。

吉、七、と名に着ける者が多かったが、元の名前が市八、で、主からも末広がりのいい名だ、と褒められ、元の名である市八を名乗っていた。
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