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another storys
第11章 約束【陽炎】
「ちょいと、おるいさん」
「なんだい?」
何時ものように店の仕度の前に湯屋に行ったるいに、話しかけるひとりの女。
よく湯屋で行きあう噂好きのお内儀さんだ。
「あんたンとこのサヨちゃん、もう年頃なんだろうに縁談のひとつもないのかい?」
「縁談て…あの子はまだ十七だもの」
「十七なんて立派な年じゃないか!ちゃんといいとこに縁付かせてやらないとさぁ、実は昨日ね?男と湯島のあたりを歩いているのを見たって人がいるのサね」
あたりを憚るように、るいの耳元で囁く。
昨日は確か、市八が薮入りで会っていたはずだ。サヨの口から確と聞いたわけではないが、二人が恋仲なのは女の勘でなんとなし知っている。
市八は大店の奉公人だから、自由に外に出る機会は年に二度の薮入りしかない。
サヨもそれを心待ちにしており、それに口を出すのは如何に親といえども野暮だと思う。
「なんだい?」
何時ものように店の仕度の前に湯屋に行ったるいに、話しかけるひとりの女。
よく湯屋で行きあう噂好きのお内儀さんだ。
「あんたンとこのサヨちゃん、もう年頃なんだろうに縁談のひとつもないのかい?」
「縁談て…あの子はまだ十七だもの」
「十七なんて立派な年じゃないか!ちゃんといいとこに縁付かせてやらないとさぁ、実は昨日ね?男と湯島のあたりを歩いているのを見たって人がいるのサね」
あたりを憚るように、るいの耳元で囁く。
昨日は確か、市八が薮入りで会っていたはずだ。サヨの口から確と聞いたわけではないが、二人が恋仲なのは女の勘でなんとなし知っている。
市八は大店の奉公人だから、自由に外に出る機会は年に二度の薮入りしかない。
サヨもそれを心待ちにしており、それに口を出すのは如何に親といえども野暮だと思う。