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第14章 蝶の見る夢【陽炎】
「桜…同じ見世におるのに、顔を合わせるのは久しゅうありんすな…」

「常磐花魁(ときわおいらん)…」」

桜はあからさまにうんざりした顔で、つと顔を背ける。

「そのような顔をしんすな…わちきとて、偶には禿や新造の他と喋ってみたいこともありんす…」

張り店の始まる前…

風呂を終えて、仕掛を作る前に汗を引かせる為、単衣の浴衣を羽織り、気怠げに団扇を動かす一人の女郎。
名は桜。

格は附廻(つけまわし)といい、低くはない。
見世の二階で客を取る端女郎の中では一番上、とは言え、客に選ばれる立場であり、どのような客に買われようとも文句は言えぬ。
茶屋を通してしか仕事をせず、意に染まぬ客は袖にする、呼出と呼ばれる最高位の常磐とはそもそもが違う。

桜は古株で、常磐が禿(かむろ※)として先代の花魁についていた頃見世に来た。
その頃禿も新造も十分居たのと、禿になるにはやや年嵩で、朋輩にはなり得なかった。

(※ かむろ→次代の花魁となるべく花魁の世話をしながら学ぶ女の子。十歳程度で、特に器量の良い子。新造はその上、十五歳程度)
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