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another storys
第14章 蝶の見る夢【陽炎】
昔から、常磐には芸事の修練があり、桜を含む他の者には下働きとしての、厳しい仕事があった。
お互い無駄口を叩く暇もなければ、同じ見世にあっても口を利くことも少なかった。
それでも。
常盤は桜と一度話してみたい、と思っていた。
なぜかしら、雰囲気のある女なのだ。
「なんぞあったのかぇ…」
「別に…」
まだ化粧も施していない、その横顔はろうたけて、とても美しく見えた。
「贔屓の客に袖にされた、ただそれだけのことでありんすよ…」
吐き捨てるようにぽつりと呟く。
「そのお方を、好いておったのかぇ?」
桜はキュ、と唇を引き結ぶ。自嘲的にクッと喉の奥で笑うと、
「莫迦な事をとお思いでありんしょうなぁ…」
遠い目で窓の向こうを眺めた。
「そんなことは…」
桜は、キッと常磐を睨んだ。
「正直に言うたがええ。どうぞ笑うておくれなんし。身体は売っても心は売らぬが女郎の矜持。それが男に骨抜きにされ、袖にされただけでこのザマかと、笑うておくれなんし…」
物憂げな横顔に陰りが差し、つ、と一筋の涙が伝う。
常盤は、その涙を嫉んだ。
お互い無駄口を叩く暇もなければ、同じ見世にあっても口を利くことも少なかった。
それでも。
常盤は桜と一度話してみたい、と思っていた。
なぜかしら、雰囲気のある女なのだ。
「なんぞあったのかぇ…」
「別に…」
まだ化粧も施していない、その横顔はろうたけて、とても美しく見えた。
「贔屓の客に袖にされた、ただそれだけのことでありんすよ…」
吐き捨てるようにぽつりと呟く。
「そのお方を、好いておったのかぇ?」
桜はキュ、と唇を引き結ぶ。自嘲的にクッと喉の奥で笑うと、
「莫迦な事をとお思いでありんしょうなぁ…」
遠い目で窓の向こうを眺めた。
「そんなことは…」
桜は、キッと常磐を睨んだ。
「正直に言うたがええ。どうぞ笑うておくれなんし。身体は売っても心は売らぬが女郎の矜持。それが男に骨抜きにされ、袖にされただけでこのザマかと、笑うておくれなんし…」
物憂げな横顔に陰りが差し、つ、と一筋の涙が伝う。
常盤は、その涙を嫉んだ。