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another storys
第14章 蝶の見る夢【陽炎】
「ぬしがさほどに焦がれるとは、さぞかしいい男だったのでありんしょうなぁ…」

端女郎には互いに客を取り合い食い合い、いがみ合ったり、喧嘩したりする者も多い。それを口の端で嗤い、傍観していたのが桜だ。
あまり話す機会はなくとも、聡い女であることは判った。それに涙を流させる男とは如何ほどの者なのだろう…
素直に感嘆した常盤に、桜が更に自嘲的に重ねる。

「この吉原で…一夜の夢を売るのがわっちらの仕事。外には出られぬ身であれば、想いが実ることもありんせん。男に惚れるは莫迦というもの…それでも。この心とやらいうものは…どうにも思い通りになりんせんなぁ…」

単衣の袖で涙を拭い、団扇でぱたぱたと扇いだ。

「前は七日と空けずに返っておったのが、半年余りも空き…最後にお会いしたのはもう一年程も前…その折に外にいいヒトが出来たようなことを言うておりんした…」
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