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第14章 蝶の見る夢【陽炎】
花魁と呼ばれ、蝶よ花よと持て囃される。

意に染まぬ客は言葉ひとつで袖にする。

誰もが常盤にかしずき、額づく。




だがそれも、この狭い世界の中だけのこと。

所詮女郎は籠の中の鳥。
囚われの蝶。

いくら着飾って、禿、新造を引き連れ表を練り歩くとも、大門より外に出ることは叶わぬ。

一歩でも出ればそれは足抜けとなり、咎人として厳しい折檻が待っている。

花魁として、幾人もの上客と夜を過ごし、数多の貢物に埋もれるほどの暮らしをしても。

常盤は未だ、真実の恋も愛も知らぬ。

一夜の夢を売るのが女郎の仕事。
女郎と客とは、どこまで行っても仮初めの想い人。
そこに真はあってはならぬ。
真など、望むだけ無駄なもの。
飢えて欲しても、決して、手には入らぬ幻。

惚れた晴れたなど女郎の、ましてや花魁のすることではないと言われたとしても。

それを知った桜の涙は美しかった。


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