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another storys
第27章 帆掛舟【潮騒】
私は、田舎に帰ることなく、私の婚家、善治郎さんの家は、一郎が死んで継ぐ者がなくなり、親戚から養子を迎えたと聞いた。
その養子に入った男の子が菊乃の娘と結婚したようで、何かしら、菊乃の婚家とも縁があるようやった。

三人の娘たちは、上二人は嫁ぎ、末の鞠子は独身のまま、看護師になり、ずっと私と一緒に住んどった。
母娘二人、誰に気兼ねすることもない気ままな生活。
誰かしらよう訪ねてくれるから、寂しいこともない。

田舎から出てきたときは、こんなのんびりした晩年を過ごせるやなんて思ってもみんかった。
自分の来た道を思い返すと、風と荒波に翻弄された小さな帆掛舟みたいな人生やったわ、と思い。
まぁようも転覆せんとここまで来れたもんや、と感心する。

私だけやない。
きっと、人の人生なんて、時化あり、凪ありで、そんなもんなんやろう。

大きな海の上に、小さな帆掛舟がたくさんたくさん浮かんで。
ぶつかったり助け合ったり、座礁したり転覆したり、波を乗り切ったり…

そうやって、最期に、まぁ、色々あったけど、中々えぇ人生やったわ、そう思えたら、幸せなことなんやろう。







ー了ー







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