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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと
* * * * * * *
私が二十一歳の誕生日を迎えてまもなく、お兄様は歴史の過失に則って、独善的な幸福を演じる式典の主役になった。
お兄様が花嫁に選んだ女は、仏野の会社の取引先の一つである大手メーカーの代表取締役の妹だ。
本島紀子(ほんじまのりこ)、ある日お兄様は商談先で同い年の彼女の姿を見かけて、その肉体に酷く心を打たれたらしい。
得手の口説き文句でデートの約束をとりつけて、持ち前の理屈でその当日にホテルに連行、それからプロポーズに至るまで、僅か四ヶ月だった。
紀子さんは、なかんずくセックスの味をしめた人種ではない。さりとてかつて仏野の屋敷に同居していた恥晒し達のように、世間体だの道徳だのを盲信している類の人間でもない。
ある意味、紀子さんは自我に欠けていた。
その自我に欠けた性質も、お兄様にしてみれば、磨き甲斐があるのだという。加えて自己主張の弱い女の方が、お兄様の素行に今後も寛大である見込みがあるらしい。
つまるところ、お兄様は無条件に紀子さんを愛してしまったようだった。紀子さんもお兄様の期待に違わず、例えばお兄様が彼女の誕生日、贔屓の女一人を連れて十人の少年達のアヌスを比べて遊んだ昨年暮れも、彼女はバースデープレゼントの値上げだけで彼を許した。