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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと
「姫猫」
「──……」
「姫猫、姫猫」
「…………」
朝ぼらけの迷惑者が、泥のような眠りにとけていた私を揺さぶっていた。
下半身がだるい。つい数時間前、抜けるような法悦を泳いでいた肉体は痺れて、心魂の方は色のない、深い夢の蜜に浸かっていた。
「姫猫。姫猫」
メイドが起床を促しに来室したのにしては、早すぎる。
感覚からして、確かに眠って五時間も経っていないし、私を揺らすごつごつした手も、メイドにしては無礼で無骨だ。
私の女の秘境をまさぐり、私のとろみの具合を確かめた指。
そう、私を眠りから引きずり出そうとしているのは、昨夜枕を交わしたお兄様だった。
「なぁに……。さんざんやったでしょ……。紀子さんのところへ行けば?……」
私はシーツを抱き締めて、この寝室の本来の住人にお兄様を押しつけようと試みた。
お兄様とのセックスは、十五歳、私が人間の楽しみを身につけた時分から茶飯事だった。それはお兄様が婚姻しても変わらなかった。
女の肉体を好む私は、まづるが話した通り、同じ精神、同じ肉体を持つ彼女らにこそ眷属意識を滾らせる。
そして私は、名前における眷属達に覚える愛着心も強い。
精神や肉体こそ女と男という大差があっても、お父様がそうであったのと同様、お兄様も私と同じ仏野の遺伝子を所有している。私はお兄様を私の腹で泳がせる時、水に還った魚になるのだ。その点、紀子さんは、先代のあるじの配偶者と違ってもの分かりが良かった。