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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと
私は、お兄様の提案もあって欧米への密入国を予定していた。
収入は激減した。持ち物など庶民以下だが、国を出ればそれなりに快適な屋敷を持って、使用人も幾らか雇える。国民性も、日本よりは先進的且つ自我が強く優良だ。適度に暮らしやすい土地、そこで私は外国人なり在留日本人なりと懇ろになれば、今よりすこぶる暮らしやすかろう。
「珍しいですね。姫猫様が他人をご心配なさるなんて」
「そこらの令嬢ならともかく、お兄様の愛人よ。そんな女に何かあったら、お兄様、私にどんな賠償を求めてくるか分からないわ」
「そうですか」
意味深長な使用人の微笑みが、私の癪を挑発する。
顔も名前も知らない私の影武者、その佳子とやらを私が思い遣ることに、丸井が不思議がるのも無理はない。
何不自由なく暮らしていた少女の時代、私は望むものをお父様から何であっても与えられてきた。洋服に、宝石に、土地、株券、そして由緒正しい血統の美少女達──…。使用したい女を手に入れるためであれば、先方の一族も陥れた。
お兄様の愛人であっても、同じことだ。
私には、自由の他に何でもある。お兄様の愛人を誤って絶命させてしまっても、責任はとれる。
「丸井」
私は、折り畳まれた寝具を見つめた。
長く黒い髪が一本、花柄のシーツに貼りついている。
丸井も怠慢になったものだ。彼女が屋敷の自家用車を運転していた頃は、シートに埃一つもなかった。
「久し振りに大好物が食べたいわ。協力してくれないかしら」