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危険な香りに誘われて
第8章 危険な虎
「そ、そろそろ時間だよ。賢也行こう」

立ち上がると賢也の腕を掴んだ。

「行くの、真紀ちゃん」

「はい。じゃあ、お先です」

「また、餃子行こうね」

ひーっ。真紀は、全身が凍りつきそうになった。
賢也は、今にも頭を食いちぎりそうな雰囲気を醸し出している。

「賢也」

真紀は、賢也の腕を引っ張るように店を出た。

「あいつと親しいのか」

「なんで」

「真紀ちゃんなんて、馴れ馴れしく呼んでたぞ」

背中にじっとりと汗が流れるのを感じた。相当機嫌が悪い。

「賢也だって、親しくなかったけど、真紀ちゃんて呼んでたじゃない」

「彼氏の前で呼ぶか、普通」

「いいじゃない、そんなの。それより、ほら始まっちゃうよ」

賢也の機嫌悪いオーラが、渦を巻いている。
いつ、爆発するかわからない爆弾を抱えているみたいだ。
帰りたい。いや、帰った方が、怖いかも。映画が終わる頃には、賢也の機嫌が直っていますように。真紀は、心の中で祈った。

映画を観ている間も賢也の顔は、不機嫌なまま。真紀は、精神的にぐったりした。
これほど、疲れる鑑賞はなかった。しかもストーリーが何も頭に残っていない。



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