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危険な香りに誘われて
第9章 虎と女帝
高級車の後部座席に乗り込んで、真紀は、すぐに後悔した。
本当に良かったのか。
車窓から見える景色、閑静な住宅街を通りぬけ、やがて高級住宅地へと入っていく。何軒も建つような広い土地を使って、建てられた屋敷が、建ち並ぶ。どの家もオリジナルに拘って、類似するような物件は一つもない。
外からは、何も伺えないほど高い塀に囲まれた屋敷の前に車が止まり、真紀は、息を飲んだ。
大きな門構えを見て、寺かと思った。

「しばらくお待ちください」と言い残し、白鳥は、車でどこかへ行ってしまった。

一人ポツンと門前で置いていかれ、心細い。
ふと見上げると門には、複数台のカメラ。そこだけではない、あちこちにカメラが設置されている。
怖くなってきた。足が竦み、膝が震える。
このまま帰ってしまおうか。そうしよう。踵を返した時。

「お待ちになりましたか」

どこから現れたのか、中年の女が立っている。

「いえ。全然」

思わずしゃんと背筋を伸ばし、90度に腰を曲げた。

「初めまして、岸本真紀です」

こんな大きな屋敷の奥様って、どんな人かと思ったら、結構普通のおばさんじゃない。ビビる必要なかったかも。真紀は、地面を見つめながら、そんなことを思っていた。

「どうぞ、こちらへ」



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