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危険な香りに誘われて
第10章 やっぱり虎
帰る道中で夕飯を済ませ、二人が大阪のマンションに戻ってきたのは、夜の10時過ぎ。

「沸いたから、お風呂入ってきなよ」

「お前も入んだろ」

「うん。賢也、先に入ってて」

帰りに土産店で買った梅干しや、うすかわ饅頭をテーブルに広げながら言うと、賢也は、「早く来いよ」と言い残し、先に浴室へ向かった。

明日の朝食どうしようか。真紀は、冷蔵庫の中をのぞいた。
卵ポケットが空になっている。
遊びに行って、買い物することをすっかり忘れていた。
近くのスーパーは、もう閉店時間を過ぎている。コンビニで、卵とハムくらい売っている。途中通りがかる公園付近に、最近チカンや変質者が出ると噂もあって、真紀は、一瞬迷った。深夜なら行くのを諦めただろう。まだ10時過ぎたところ。危ない時間じゃない。

真紀は、メモを残し、ポケットに千円だけ忍ばせて出て行った。

「あっ、しまった。スマホ持ってくるの忘れた」

慌てて、他に何も持たずに出たことに気づいたのは、コンビニの前に来てからだ。
すぐに戻るからいいか。そのままコンビニに入った真紀は、卵とハムをカゴに入れ、レジへ並んだ。

ぷんと鼻につくほどのアルコール臭に、真紀は、チラッと後ろを伺った。
カーゴパンツに鍵やチェーンをジャラジャラとぶら下げた男が、真紀の背後に立っている。
手には、缶チューハイ。
前の客が精算を済ませ、一歩足を前に出した時、ふいに尻を撫でられた気がした。

クルッと振り返ると男は、知らん顔している。何か当たっただけかも。気を取り直して、台の上にカゴを乗せた。

背中に感じるじっとりとした視線。
気持ち悪い。
さっさとお金払って帰ろう。

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