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危険な香りに誘われて
第11章 夜空に咲く花の下で
「ところで、賢也君」

「はい」

突然、父親が真面目な顔をする。賢也も何かを察知したのか、崩していた足を戻し、正座した。

「うちの娘のこと、どうしようと思ってんのか聞かせてくれんか?何でも一緒に暮らしているそうじゃないか。まぁ、俺は、そんな煩い父親じゃないけどよ。でもな、これでも一応、大事な娘なんでね」

「実は、昨日彼女にプロポーズしたところです。本当は、こんなついでみたいな形で、ご挨拶したくなかったんですが。お父さん、俺に真紀さんをください」

賢也は、手を膝に乗せ、頭を下げた。真紀も賢也の隣で、一緒に頭を下げる。
父親は、めっきり数を減らしたタバコに火を点けた。ふんっと煙を鼻から出す。

「まぁ、やらんでもない。ただし、条件がある」

真紀が、頭を上げた。嫌な予感がした。

「巨人ファンになりなさい」

「はぁーっ」

真紀が、大声を出した。娘の結婚の条件が、それかよ。父親に抗議しようと立ち上がろうとした途端、賢也に肩を抑え込まれた。

「そんな簡単に鞍替えする男でいいんですか?俺が、はいわかりましたって言ったら、俺の事、信用できなくなるでしょう?お父さん」

賢也がニヤリと笑う。父親は、顎に手を置いて頷いた。

「ふむ」

「なので、その条件は、飲めません」

父親は、ワハハハハと大口あけて笑い出した。

「うん、気に入ったぞ。真紀には、勿体ねぇな。よし、やるやる」

なんか、ムカつくな。やるとか、やらんとか、私は、ものじゃないよ。
真紀は、小さく舌打ちした。

「まぁ、真紀。認めてもらえて、良かったじゃないか。親父は、巨人ファンしか認めないってお前ら帰ってくる前に息巻いてたんだからな。よし、乾杯しよう。美幸、酒持ってこい」

兄が、その場を締めくくると、真紀もふて腐れつつ頷いた。
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