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危険な香りに誘われて
第12章 皇帝
皇帝は、顔色一つ変えず、女将に顔を向けた。

「女将、揃ったようだ。食事を運んでくれ」

「かしこまりました」

皇帝は、無表情のまま顎で指図した。
賢也は、皇帝を睨んだまま、真紀の隣に腰を下ろし、胡坐をかいた。頬の筋肉がヒクヒクしている。

「呼び出したのは、他でもない。お前に面白い話を教えてやろうと思ってな。実は、佐野の土地を開発したいと相談してきた業者がいる」

賢也は、顔色を変えた。佐野は、真紀の実家がある場所じゃねぇか。くそ親父、汚ぇ手を使いやがって。

「手を出すな」

もし、手を出したらぶっ殺してやる。賢也は、握り拳に力を入れた。

「これも商売だ」

「あそこには、真紀の家族が住んでんだぞっ」

「ああ、勿論知っている。だからお前を呼んだ」

「あんたの商売の手助けをするつもりは、無いって言ったはずだ」

皇帝は、口角を上げた。

「いいんだな?俺は、女、子供でも、情け容赦かけたりはしないぞ。例え、6歳の子供でもな」

昨日、真紀の実家に行ったのもバレているのか。賢也の額に汗が流れる。

「何をするつもりだ」

「私は、何もしない。ただ、うちの若い者が、何をするかは、分からんが。・・・・お前次第だ」

なんて冷たい目で、自分の息子を見るのだろう。そして賢也も同じだ。本当に親子なのか。二人の間に流れる緊張感は、女帝の時とは、比べようもないほど。信じられない光景に、真紀は、ただただ、目をしばたたかせるだけだった。


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