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危険な香りに誘われて
第12章 皇帝
御膳の上に次々と並べられた、流石老舗料亭と言わんばかりの器に盛りつけられた料理。誰も手をつけようとはしない。

「お前は、こっち側の人間だ。いい加減目を覚ませ」

「違うっ、俺は」

「先日、お前が暴行した男。両手の指を再起不能にしたと聞いたが?」

「くっ、何で、それを」

賢也は、チラッと真紀を見た。恐怖と不安に怯えた表情が、目に映る。賢也は、思わず顔を背けた。

「お前に選択肢は、無い。もうわかっているだろ?」

皇帝は、追いつめて、降伏しろとせまる。
賢也は、ずっと俯き加減で黙り込んでいた。

「どうした、言い返すことも出来んのか?」

「頼むから、真紀の実家に迷惑かけることだけは、やめてくれ」

「それが、ものを頼む人間の態度か?」

諦めたような表情を見せると賢也は、手をついて頭を下げた。

「お願いします。真紀の実家に手を出さないで下さい」

どれほどの屈辱か。それでも今は、頭を下げる他無かった。
真紀は、賢也の姿を見て泣きそうになった。

「明日、うちのもんを迎えによこす」

「わかりました」

「服従するお前を初めて見たよ。そこまで女に入れ込んでるとはな」

手をついた賢也は、下を向いたまま、顔を上げようとしない。
ギュッと唇をかみしめている。




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