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危険な香りに誘われて
第13章 陽の当たらない世界
ポケットから取り出した封筒の中をのぞく。賢也は、無言でそれを見つめた。微量の白い粉。
このまま捨てるか。いや、待てよ。こいつは、何かに使えるかも。思い直し、胸ポケットに戻した。

「賢坊」

ここの連中は、俺を子供と思っているのか?
ムッとしながら振り向くと会社の重役、広川だった。厳つい顔、貫禄のある体格。元、本部にいた広川は、柴田よりずっと迫力がある。

「お前、ちょっと来い」

広川は、賢也の背中に手を置くと男子トイレへ連れて行く。
またかよ。なんで臭い所に行きたがるんだ?賢也は、渋い顔をした。

「今、柴田と何話してた?」

「あ・・・え、何って」

広川は、掌を上に向け差し出した。

「出せよ。わかってんだぞ」

「出すって、何ですか?」

とぼけていると賢也の胸ポケットに手を突っ込んで封筒を取りだした。広川は、封筒から透明の袋を取りだす。

「クソ柴、ったく、どうしようもねぇ奴だな」

広川は、便器に捨てるとレバーをひねり、そして、振り返ると、大きな目でジロリと賢也を睨みつけた。
その睨みは、流石に、元本部の人間。そこらのチンピラとは、訳が違う。

「お前は、これに手を出すな。自分の立場わかってんだろ?例え、名前だけでも、お前は、次の代表になんだぞ。面倒を起こすなよ」

「わかってますよ。それは、柴田さんが無理やり押し付けてきたんです」

「そんなことは、分かってんだよ。だがな、興味本位でやって、終わっちまう奴が山ほどいるんだ」

「言われなくても、知ってますよ。身近にいましたからね」

広川は、ふんと鼻を鳴らした。

「今夜、接待あっから、7時に出るぞ」
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