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危険な香りに誘われて
第13章 陽の当たらない世界
賢也のスマホから着信音が響いた。二人して、床に投げ置いたスマホに目を向ける。賢也は、スマホを手に取ると、相手の名前を確認した。

「悪い」

真紀を降ろし、リビングを出て行く。
相手が誰なのか、分からなくても、賢也の態度を見れば、聞かれたくない話だということだけは、察しがつく。

リビングに戻ってきた賢也は、気まずそうな顔を向け。

「ちょっと、出てくる」

真紀の不安な顔色を見ないように、賢也は、視線をずらした。

「どこ行くの?」

「ちょっとな」

「誰と」

「真紀の知らん奴」

「仕事?」

「真紀には、関係ない」

下唇を噛みしめて賢也を睨む真紀を見て見ぬふりをし、賢也は、床に脱ぎ捨たシャツを手にする。

「すぐ戻る」

「すぐって、どのくらい?」

「帰り、電話する」

真紀は、ひったくるようにシャツを奪い、自分の後ろへ隠し賢也の正面に回り。

「何で、私には、何も教えてくれないの?」

顔をしかめる賢也を見据えた。

「賢也のお父さんの会社の名前も何をしている企業なのかも、賢也が何をしているのかも、私は、何も知らないんだよ?」

小さなため息が、賢也の口からもれる。
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