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危険な香りに誘われて
第14章 門限
事務所のドアの外に鬼が立ちはだかっている。肩で息をして、恐ろしいほど怒りに満ちた顔をした賢也だった。

「何やってんだっ」

真紀の顔見た途端、賢也は、唸るような声で怒鳴った。
あまりの怖さに真紀の体が硬直する。

ツカツカと事務所に入ると、賢也は、真紀を拘束している男の顔面を掴み、そのまま壁へ激しく頭を打ちつけた。膝を使って腹を蹴ると男は、呻きながら床へ倒れ込んだ。一瞬の出来事だった。

「ぶっ殺されてぇのか」

男の背中を革靴で踏みつけると、男の手からスマホが零れ落ちた。郁美は、パッと駆け寄ってスマホを握ると取り込まれた画像や動画の全てを削除し、床に叩きつた。そしてパイプ椅子を掴むとスマホに向かって振りおろした。
グシャッという音と共にスマホの画面に椅子が食い込んでいる。
はぁはぁと息を切らし、郁美は、椅子を持つ手を握り直した。
賢也にねじ伏せられている男の腰に向かってパイプ椅子を振り上げ、叩きつけた。

「ぎゃーっ」

涙目で立ち尽くす郁美を見て、真紀は、駆け寄り抱き締めた。

「殺して・・・やる。こんな奴、死ねばいいっ」

郁美が椅子を振り上げ、男の顔めがけて振り降ろす。

「だめぇっ、郁美。死んじゃうって」

男は、両手を頭の上に置き、顔に恐怖を滲ませている。

「うわぁぁぁ。や、やめてくれぇーっ」

当たる寸前で賢也が椅子を掴んだ。

「こんなゴキブリでも殺したら、過剰防衛で捕まるぞ」

郁美は、賢也を見上げると、パイプから手を離した。赤くなった掌をブルブル震わせている。

「・・・・やられたのか」

郁美は、首を横に振った。

「最後までは・・・・」

「だったら、もう止めとけ」

「でも・・・こんな奴に、触られて、悔しい」

郁美は、ポロッと涙を零した。真紀は、そっと郁美の腕に手を添えて一緒になって涙を流した。

「時間がねぇんだ。泣くのは、後にしろ」
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