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危険な香りに誘われて
第15章 明けない夜はない
父親の、自室に日本刀が数本並べられている。手入れの最中らしい。賢也は、部屋の隅に正座した。

「手短に言え」

威嚇するような声。父親は、日本刀と向き合い、賢也を見ようともしない。

「ああ」

ゴクリ、賢也は唾を飲み込むと、手をつき、頭を畳に擦りつけた。

「俺を自由にしてくれ。頼むっ」

父親は、賢也に見下したような視線を送ったが、言葉を発すること無く黙っている。
緊張感が走る。賢也の背中は、汗でビッショリ、シャツが張りついた。

「あんたと違って、俺は、この世界には、向いてねぇ。3次の若い奴らが、シャブの密売や売人をやったり、売春させたり、詐欺や窃盗しているって聞いただけで、たまんねぇ気持ちになるんだよ。俺らがやっている仕事もそうだ。情報買って裏取引やったり、土地を騙し取ったり、そんなこと俺は、もうやりたくないんだ」

クッと含んだような笑いが父親の口から零れた。賢也は、顔を上げた。

「何を弱気なことを言っている?3次の奴らが何をしようが、知ったことじゃねぇ。大事なのは、津嶋を守ることだ」

「親父は、そうかもしれんが、俺は、違う。津嶋を大事だとは、思ってねぇ。そんな俺が、オカザキの代表なんて出来る訳がないんだ。あんただって、本当は、わかってんだろ?俺が、そのうち裏切るって」

首筋が、ひんやりした。賢也の首に刃が触れている。
俺を殺す気か。賢也は、目を泳がせた。

「人には、避けて通れない道がある。俺にもお前にもな。何故、それがわからん?」

「俺は、もっと普通の生き方がしたいんだ。もう、これ以上は、手伝えねぇ。俺と縁を切ってくれ」

ポタリ、汗が畳に落ち、滲み込んでいく。
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