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危険な香りに誘われて
第15章 明けない夜はない
「お前が親父か」

「ああ」

賢也は、真理の背中をポンと叩いた。

「お前なら、優しくて強い父親になるよ」

「だといいんだけど」

「真紀に何を聞かれても知らないと言ってくれ」

真理は、目を大きく開き、賢也の横顔を見つめた。

「今夜、出て行く」

「本気か」

決意を固めた横顔。真理は、何を言っても無駄だと悟った。
二人は、無言のまま新生児室で泣く生まれて間もない純真で無垢な赤ん坊たちを眺めていた。

暫くして、真紀が戻ってきた。

「賢也」

声を弾ませ、嬉しそうに背中に抱きつく。

「そろそろ帰るか」

「もう?」

「また、ゆっくりくればいい」

「そうだね」

「じゃあな」

賢也は、真紀の背中に手を置き、歩き出す。

「賢也」

真理が呼んでいる。しかし、賢也は、振り返ろうとしない。

「賢也、真理さんが」

真紀は、不思議に思って賢也を見上げ、ハッとした。口を一文字に結び、まるで感情を押し殺したような表情。

「賢也っ」

真理が声を張り上げ賢也を呼ぶ。

「・・・・・またな。また会おうな。・・・・・俺たちは、ずっと・・・・」

辛そうな声は、だんだん小さくなり、途中から聞こえなくなった。賢也は、振り向かずに、軽く手を上げて真理に応えた。

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