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危険な香りに誘われて
第15章 明けない夜はない
「嫌だよ。ううっ・・・ずっと・・・うっ・・・賢也といる。ひっ・・・私も賢也と一緒・・・ひっ・・・行く」

「ありがとうな。そう言ってくれるだけで、もう十分だ」

「何でぇ・・・。何で・・・・うっ・・・・そんな・・・・こ・・・・・と・・・・言うの?私達、結婚す・・・んじゃ・・・うっ、ひっ・・・・なかったの、ねぇ」

涙と鼻水で濡れた顔をくしゃくしゃにして泣き崩れる真紀の姿を見て、賢也は、心臓をえぐり取られたような感覚に襲われた。

「俺と一緒になったら、お前の家族に迷惑が掛かる。身内の結婚や就職が、俺の為にダメになるかもしれないんだぞ。もし俺が、捕まったら、新聞やニュースにでるかもしれない。そん時、お前は、犯罪者の妻になっちまうし、お前の家族も、犯罪者の身内として、世間から白い目で見られるんだぞ。そんな事になっても、お前は、平気でいられるか?」

真紀は、声を上げて泣いた。
ただひたすら「別れたくない」そう言い続けた。

「離さないって・・・・言った・・・・」

真紀は、床に崩れ落ち、わぁわぁと泣き喚いた。

「ごめん」

「ぞんなごどばほじぐない。・・・・・・・・す・・・きって・・・・言っでよっ」

「好きだよ」

「いっじょ・・・いで・・・・」

「ごめんな、真紀。お前とは、もう一緒にいられないんだ。分かってくれ」

辛そうな顔が垣間見える。賢也は、何度も謝った。

「やだーっ」

泣き崩れても、責めても、賢也は、別れを撤回する言葉を口にしなかった。
深夜、泣き疲れ、一人ベッドで横たわる真紀に賢也は、最後の別れの言葉を残し、出て行った。

ドアが閉まる音が聞こえると真紀は、ベッドを飛び出し、追いかけるように玄関の外へ裸足で飛び出した。

下の様子を伺うと、一台の車が待機している。しばらくすると後部座席に乗り込む賢也の姿が見えた。

賢也が、行ってしまう。




いつか、賢也が目の前から消えてしまうかもしれない。
ずっと不安だった。
そんな日が、来なければいいと、願っていたのに。
突然訪れた別れ。


真紀は涙を滲ませ、車が走り去っても、長い時間、その場から離れられずにいた。

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