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危険な香りに誘われて
第16章 止まない雨はない
弁護士と面会した翌日。真紀は、衣類をキャリーバッグに詰め込んで実家へ向かった。
快速に乗って1時時間。さらに、各駅列車に乗り替えて10分。
駅から実家まで、歩けば20分は掛かる。
実家に電話すると父親が、店の軽トラで迎えに来てくれた。


「賢也君は、一緒じゃないのか」

「うん」

父親は、ハンドルを握りながらチラッと真紀の横顔を伺った。
昨夜、大事な話があるから実家に行くと電話してきた時、結婚式の話を煮詰めて、その報告でもするのかと思っていたが。痩せて、顔色も悪い娘を見て、どうやら良い話ではなさそうだと判断し、それ以上何も聞かず、トラックを運転することだけに集中した。

真紀の様子がいつもと違う。家族全員が、感じとった。
その理由を知った時、全員が、言葉を失った。

「賢也君が、暴力団員に?」

「まだ、なってないと思う。でも、いずれ、そうなるみたいな口ぶりだった」

本人が望んでいるわけではないこと。追い詰められて、仕方くなく、フロント企業で働いていること。賢也が、真紀と真紀の家族を思って別れを決意し、出て行ったこと。真紀は、包み隠さず正直に打ち明けた。

「縁がなかったんだ」

「残念だけど仕方ないわね」

「お前が、苦労する。別れてくれて良かったよ」

安堵した家族の表情。悲しいけど、これが普通なんだろう。真紀は、目を閉じ、深呼吸した。そして顔を上げ、父親を真っ直ぐに見据えた。

「父さん。親不孝なことを言ってもいい?」

父親の頬が、引き吊った。娘の言わんとすることは、聞くまでもない。

「私、賢也と結婚したい。賢也を支えたいの。だから私と縁を切って下さい」

父親は、深いため息を吐いた。悩みに悩み抜いた結果だろう。しかし親として、どうしても賛成してやることは、出来ない。

「お前、賢也君の話を聞いたろ?」

「うん」

「だったら」

「そうよ、バカな考えは、よして。母さん、怖いわ」

「お願いします」
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