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危険な香りに誘われて
第16章 止まない雨はない
何度も父親に頭を下げた。しかし首を縦に振ってもらうことは無く。
むしろ、家族全員が真紀を説得しようとした。

「冷静になれ。今は、辛いかもしれんが、時間が解決する」

「子供が生まれたら、可哀想よ」

母親は、泣いた。

「娘が、苦労すると分かっているのに、そんな結婚を認める訳にはいかん」

父親も頑として反対した。
誰も賛成しない。話し合いは、何日も続いた。

結婚したいと訴え続ける娘の考えを変えたい。真紀が実家に泊まっている間、自分の知り合いで身内に暴力団員がいる家族が、いかに苦労しているか、酷い目に合ったか、そんな話ばかりを聞かせた。

互いに譲らないまま、一週間が過ぎてしまった。
弁護士との面会まで二日しかない。

縁側に座ってぼんやりしていると父親が、新聞と爪切りを手に隣へ座った。
老眼鏡を掛けて足の爪を切っている。

「なぁ、真紀。俺も色々考えてみた。お前の気持ちも、賢也君が、辛い立場にいることも、分からない訳じゃない。お前が好きになった人だし、彼は、とてもいい青年だってことも。それでもな、やっぱり賛成は、出来ないよ」

「うん」

真紀は、膝を抱え、顔を埋めた。

「すまんな」

「ううん。父さんの言っていること、わかる」

「そうか」

「ごめんね、父さん。皆の反対を押し切っても、私、賢也と生きていきたい。賢也の側にいたいの」

手を止めた父親が、ふーっと息を吐いた。爪をこぼさないように新聞を折りたたむ。

「誰に似たんだか。頑固だな」

「ごめんなさい」

父親は、どっこいしょと腰を上げ、娘を見下ろした。

「好きにしなさい。その代り自分で選んだ人生だ。困ったことになっても、泣きついてくるなよ?」

真紀は、目に涙を滲ませた。

「ありがとう」


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