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危険な香りに誘われて
第16章 止まない雨はない
伊藤が、面会に訪れた。約束の時間ピッタリに。

そして、二人の間におり合いがつかず、ずっと睨み合いが続いている。

真紀は、賢也と会いたいの一点張り。伊藤弁護士は、さっとさ慰謝料を受け取れとお互い一歩も譲らないからだ。

電話番号を変えた賢也と連絡がとれない真紀にとって、伊藤弁護士は頼みの綱。
しかし、依頼人の代理として来ている伊藤は、真紀の気持ちを聞き入れる訳にはいかない。

「岸本さん、賢也さんが、会いたくないと仰っているんです。いい加減諦めてください」

「嫌です」

「困りましたね」

こうなったら泣き落としの手で。真紀は、顔をテーブルに伏せた。

「ううっ。賢也に会いたいんです・・・先生」

泣いているふりをした。伊藤は、冷ややかな表情で真紀を見ている。

それどころか頬杖ついてボールペンを指先でクルクル回転させ始めた。
見事なくらい早い回転。チラッと伊藤の様子を伺うつもりで真紀は、顔を上げ、思わず見入ってしまった。
そういえば、中学の時、授業中に無意識に回転させている男子がいたっけ。それにしても回転早っ。感心していると、伊藤が、手を止めた。

「泣いてないですよね?」

しまった!見破られた。真紀は、顔を赤くした。

「お願いします。賢也が、どこにいるか教えてください」

テーブルにおでこを擦りつけ、頼み込む。

「岸本さん・・・」

「せめて会社がどこにあるかだけでも教えてください」

「慰謝料もらった方が賢い選択だと思いますよ?」
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