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危険な香りに誘われて
第16章 止まない雨はない
「賢さん」

板倉が、営業一課の扉を勢いよく開けた。はぁはぁと息を切らせている。

「どうした?」

「大変です」

口をパクパクさせている板倉を見て広川が、ハッとする。

「サツか?査察か?」

ふるふると首を振る板倉にイラつきながら、賢也と広川は、次の言葉を待った。

「それが」

「さっさと喋れ」

広川が、新聞を机に叩きつけた。
板倉は、落ち着こうとゴクッと空気を飲んだ。

次の瞬間、賢也は、営業一課を飛び出していた。
急ぎ足で下のフロアーへ行き、総務経理課へ飛び込むと、そこにはあり得ない人物が、経理課長と笑って話をしている。

「賢也さん。新しく入った岸本さんです」

「よろしくお願いします。賢也さん」

にっこりと真紀が微笑むと、賢也は、体をよろめかせた。
考えられない真紀の行動に、度肝を抜かれ、言葉も出ない。

「じゃあ、旭さん、岸本さんに各フロアー案内して」

「はい」

まて、こら。本気か?何考えてんだよ。
すれ違いざま、真紀が賢也に微笑む。賢也は、心臓を撃ち抜かれた気がした。何も言えないまま、真紀が出て行くのを見送った。

「しかし賢也さん。目が早いですね。ああいうタイプが、好みですか?私は、もう少し胸の大きい方が良いんですけどね」

賢也は、経理課長の胸ぐらを掴んで、鬼の形相を近づけ脅した。

「勝手に品定めしてんじゃねえぞ、こら」

「すみません、すみません」

手を離すと課長は、足をもたつかせ、そのまま尻もちをついた。

「くそっ、何考えてんだ」
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