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危険な香りに誘われて
第16章 止まない雨はない
「ははは、やるじゃねえか、お前の女」

車の中でふて腐れ、窓の外を眺める賢也の隣で広川が手を叩き、爆笑する。

「もう自分の女じゃないですから」

ブスッとした賢也の肩を広川が、パンと叩いた。

「けっ。未練タラタラなんだろ」

「そんなもんありませんよ」

「追いかけられて、内心喜んでんじゃねぇのか」

「まさか」

「ふーん。じゃあ、他の男の物になってもいいんだな?」

「別に、構いません」

もう別れたんだ。真紀が、誰と一緒になろうが、関係ない。会社で見かけても無視しろ。女は、性処理の道具だった昔の自分に戻れ。どんなに愛しても、あいつを不幸にするだけだ。未練たらしい態度をとるな。心の中で、自分に言い聞かせた。

「真紀ちゃん、可愛いっスからね。きっと社内でモテますよ。本当にいいんですか?」

しかし、どんなに思い込もうとしても、真紀への感情は、消えない。板倉の言葉にカッとなった。

「煩せぇ、板倉。黙って運転してろ」

運転席シートの背もたれに蹴りを入れ、板倉の頭をパシッと張る。
板倉は、髪を整えながら、チラチラとミラー越しに賢也を見てニヤニヤしている。
くそっ、どいつもこいつも。賢也は、奥歯を噛んだ。

「気持ち悪いんだよ」

どかっと、シートをもう一度蹴った。
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