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危険な香りに誘われて
第16章 止まない雨はない
「あいつら、土地を売れって、そんなにしつこいのか?」

「そうなんだよ。畑は、めちゃくちゃにするし」

「そいつらが、やった証拠でもあるのか?」

「いや、証拠はない。しかし、あいつら以外に、そんなことする者は、おらん」

「そうか。困ったな」

広川は、顎に手を置いた。老人は、ガックリと肩を落とし、項垂れている。

「大丈夫ですか」

板倉が、熱いお茶を老人に差し出した。

「板倉さん、いつもすまんな」

「いえ」

板倉は、同情の目を老人に向け、ペコリと頭を下げた。

「いっそ、あいつらに土地を売り渡した方が楽じゃないかって思う時があるんだよ」

老人は、熱いお茶にふーふーと息を掛け、啜る。

広川は、ふと思いついたように顔を上げた。

「なあ、爺さん。土地を持っている限り、あいつらは、しつこく迫ってくると思うんだ。だったら、いっそのこと、ちゃんとした他の業者に土地を売ったらどうだ?あんな奴らに買い叩かれるくらいなら、もっと良い値で買い取ってもらった方がいいだろう」

「しかし」

「もし、良かったら、俺の知り合いを紹介するから。いつでも言ってくれ」

「そうだな」

広川は、それ以上無理強いすることもなく、他の話を始めた。

「落ちますかね?」

「落ちるさ」

帰りの車の中で、広川は、自信あり気に言うと携帯を取り出した。

「俺だ。明後日、もう一回、荒らしとけ。ヘマすんなよ」

それから1週間後。別の仕事から帰る道中に、老人から電話が掛かってきた。

「わかったよ。すぐに、行かせるから。ああ、大丈夫だ。俺も同行してやるから、安心しろ」

電話を切った広川が、ニヤッと笑って。

「落ちた」

そう言った。
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