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危険な香りに誘われて
第16章 止まない雨はない
真紀が来て2週間。賢也のイライラは、日々募っていく一方だった。
仕事が出来る可愛い事務員だと社内で人気が上昇していると吉田が面白そうに言う。

「用もねぇのに、やたらと経理へ行く奴が増えているらしいぞ」

「あ、自分も聞きました。なんでも営業部2課の岩戸と前田が、ランチに誘ったらしいですよ」

賢也は、頬をピクピクさせた。岩戸と前田の顔を頭に浮かべる。どっちもジャガイモみたいな面していた。真紀の好みじゃない。相手にするはずがない、賢也は、被りを振った。

「いいのかよ、賢坊。そのうち、無理やり誰かにやられちまうぞ」

競馬新聞を眺めていた広川が、ニヤついた顔を賢也に向けた。

「真紀ちゃん、可愛いっスからね」

板倉まで、ニヤニヤしている。賢也は、奴当たりするようにガンッと机を蹴った。

「どいつもこいつも気安く真紀ちゃんなんて呼ぶんじゃねぇよ」

「なに、イラついてんだ。もう関係ねぇんだろ」

「うっせぇっ」

賢也は、フロアを出ると乱暴にドアを閉めた。
吉田と広川が互いに顔を見合わせる。

「ったく、素直じゃねぇな」

「でも真紀ちゃん、可愛いっスよ。そういや、室田さんが、この前見かけたらしくって、可愛いじゃねぇかって」

「室田が?」

「そうなんですよ。あの人、経理の平野さんって美人の彼女いるのに」

板倉が、3人分の珈琲を用意しながら言うと吉田が、怪訝な顔つきをした。

「ちょっと、やばくねぇか。室田は、中目組の幹部だろ。下手すりゃ、パーティーの餌食になっちまう」

「ああ。しかし、賢坊は、より戻す気ねぇって意地張ってるしな」




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