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危険な香りに誘われて
第16章 止まない雨はない
賢也は、扉に手をつき、出て行こうとした。

「賢也。言ったよね。天涯孤独なら、側に置いて離さないって」

賢也の足が止まる。

「ああ」

「今も、そう思ってる?」

賢也は、眉根を寄せた。

「答えて」

振り返ると、真紀の顔から笑顔が消えて泣きそうになっている。

「私のこと、もう、どうでもいい?」

どうでもいいと思っていたら、ここまで乗り込むわけがない。賢也は、喉の奥まで出かかった言葉を飲み込んだ。

「私は、今も賢也が好きだよ。誰よりも大事だよ。他の誰かと付き合ってもいいなんて言って欲しくない」

「真紀、何度も同じことを言わせるな」

つき離す言葉を口にするだけで、胃が痛くなる。
誰かを傷つけても平気だった。女を道具扱いしても。うっとおしい奴を叩きのめしても、なんとも思わなかった。

だが、真紀だけは違った。真紀が泣くと、自分が泣きたくなる。傷つける度に、自分を殴りたくなる。初めて愛して、愛されたいと思った。どんな手をつかっても自分のモノにしたいと望んだ。どれほど大事か、言葉では、言い表わせないほど、愛してるから、手放そうとしているのに。

「頼むから、もう、俺に関わろうとするな。俺は、お前を不幸にしたくない」


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