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危険な香りに誘われて
第16章 止まない雨はない
真紀は、床に落ちているマイクを拾い、スイッチを切るとテーブルに置いた。

「賢也が、どんな生き方しても、どんな仕事しても関係ないよ。ただ側にいたいだけ。賢也と一緒に生きていきたいだけ。その為なら、何を犠牲にしてもいいと思えるくらい、賢也が好きだよ。私・・・私ね」

真紀は、自分の胸に手を置いた。

「賢也が出て行ってから、ここがね、ずっと痛いの。苦しくて、苦しくてたまらない」

「俺たちは、住む世界が違うんだ。どんなに好きでも、一緒には、なれない。分かってくれ」

賢也は、頑なまでに受け入れようとしない。何を言っても無理なのだろうか。真紀は、目を瞬かせた。涙が止まらない。

「親に賢也のこと話した。すごく反対された」

「当たり前だ」

「だから、親子の縁切ってもらった」

賢也は、目を見開いた。瞬きすることも忘れるほど、目を開いたまま、驚いた表情で真紀を見つめた。

「な・・・」

「父さん、最後は、お前の好きにしろって。何かあっても泣きつくなよって」

「あ・・・・あほか、お前は」

「そうかもね」

真紀は、肩を竦めた。
賢也は、腰に手を置くと大きく息を吐いた。

「普通の幸せなんて、与えてやれねぇんだぞ。それに俺が捕まったらどうすんだ」

「普通って何?私が幸せかどうかは、私が決める。賢也が捕まったら、出てくるまで待ってる」

さっきまで、泣いていた真紀の顔に、笑顔が浮かんでいた。
参った。そこまでされて、どうして拒否できるだろうか。賢也の心に降参の旗が上がった。

「そんなに俺が好きか」

「うん」

「そんなに俺と一緒にいたいか」

「うん」

賢也は、ずっとそうしたかったように、痛いほど強く愛しい女を抱き締めた。

「だったら、一生側にいろ」

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