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危険な香りに誘われて
第16章 止まない雨はない
二度と触れることは無いだろうと思っていた。自分を捨てた男を必死で追いかけてきた。それが、どれほど嬉しかったか分からない。

「お前には、敵わない」

押し殺した感情を解放すると賢也は、真紀をソファに押し倒した。覆いかぶさり、濡れた頬に触れ、貪るように唇を奪う。
甘く柔らかな唇に吸いつくと、可愛い声が漏れる。

「賢也、好きって言って」

賢也は、目を細め、目尻に皺を寄せて笑った。

「好きだって?」

不安な目をする真紀の鼻先にキスをする。

「あほ」

どんなに愛しても愛したりない女がいる。そいつが泣くと、どうしていいか分からないほど困り果てる。そいつが笑うと、自分まで嬉しくなる。怒った顔も好きだったりする。拗ねた顔も、めちゃくちゃ可愛いんだ。
そいつは世界で唯一、俺を幸せにしてくれる。

「愛してる」

お前のためなら何でもする。命も惜しくねぇ。

「賢也ーっ」

真紀は、子供のように、声をあげて泣いた。

「もう、絶対どこにも行かないで」

「ああ」

「帰って来て」

「一緒に帰る。だから、もう泣くな」

賢也は、涙を唇で拭った。しょっぱいはずの涙が、甘く感じた。
真紀から甘い香りがする。賢也は、その香りを胸いっぱい吸いこんだ。
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