この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
危険な香りに誘われて
第17章 一場春夢
5時になると経理課の扉を開ける男がいる。板倉だ。
「真紀ちゃん、帰る時間っスよ」
「定時は、5時半だよ」
真紀は、壁の時計をチラッと見る。板倉は、首を横に振った。
「だめだめ、俺が賢さんに怒られちゃうんで。ほら、帰りますよ」
「はぁ」
賢也の作った門限は、いまだ健在。真紀は、仕方なく帰り支度を始めた。
「板倉さんの実家、お寺なの?」
車の中で、何気なく問いかけると。
「賢さんから聞いたんですか?はい、爺ちゃんも親父も兄貴もみんな坊主でした」
板倉の言葉が引っ掛かった。
「えっ、でした?今は、違うの?」
「あっ、坊主です、坊主。ちょっと言い間違えただけっスよ。そんな突っ込まないでくださいよ」
「板倉さんは、お坊さんになろうと思わなかったの?」
「俺、バカだし、田舎も修行も嫌で山口から逃げてきたんです」
「板倉さんの田舎って、山口なの?」
「あーっ、真紀ちゃん。ほら、あそこ。あの店。今流行りのラーメン屋とかで、雑誌に載ってたところですよ」
まるで、話をすり替えるように、板倉は、急に大きな声を出し、窓の外を指差した。
「俺、ラーメン好きなんですよ。今度、皆で行きませんか?」
「う、うん。そうだね」
板倉は、壊れたスピーカーのように、どうでもいいような話をずっとしていた。
ミラー越しに見える顔が、すごく寂しそうに見えるのは、気のせいだろうか。
真紀には、板倉が、無理に明るく振るまっているように見えて、仕方なかった。
「真紀ちゃん、帰る時間っスよ」
「定時は、5時半だよ」
真紀は、壁の時計をチラッと見る。板倉は、首を横に振った。
「だめだめ、俺が賢さんに怒られちゃうんで。ほら、帰りますよ」
「はぁ」
賢也の作った門限は、いまだ健在。真紀は、仕方なく帰り支度を始めた。
「板倉さんの実家、お寺なの?」
車の中で、何気なく問いかけると。
「賢さんから聞いたんですか?はい、爺ちゃんも親父も兄貴もみんな坊主でした」
板倉の言葉が引っ掛かった。
「えっ、でした?今は、違うの?」
「あっ、坊主です、坊主。ちょっと言い間違えただけっスよ。そんな突っ込まないでくださいよ」
「板倉さんは、お坊さんになろうと思わなかったの?」
「俺、バカだし、田舎も修行も嫌で山口から逃げてきたんです」
「板倉さんの田舎って、山口なの?」
「あーっ、真紀ちゃん。ほら、あそこ。あの店。今流行りのラーメン屋とかで、雑誌に載ってたところですよ」
まるで、話をすり替えるように、板倉は、急に大きな声を出し、窓の外を指差した。
「俺、ラーメン好きなんですよ。今度、皆で行きませんか?」
「う、うん。そうだね」
板倉は、壊れたスピーカーのように、どうでもいいような話をずっとしていた。
ミラー越しに見える顔が、すごく寂しそうに見えるのは、気のせいだろうか。
真紀には、板倉が、無理に明るく振るまっているように見えて、仕方なかった。