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危険な香りに誘われて
第17章 一場春夢
「ほら、いつも広川さんや賢さんと一緒だろ。嬉しいんだけど、あの人らといると緊張すんだよな。賢さんなんて、最近、凄味が出てきたし。やっぱ、生まれ持ってるもんが違うんだろな。存在感があるもんな」

「そうかな?あんまり分かんないけど」

凄みって、どこで必要なんだ?真紀は、苦笑いした。

「そら、真紀ちゃんの前だと違うでしょう。こーんな感じで、目尻下げて、鼻の下でろーんって伸ばして、もうメロメロって感じでさ」

「やだ、それ賢也?ハハハ」

指で目尻を下げ、面白い顔をして見せる板倉を見て、真紀はゲラゲラと声をあげて笑った。急に板倉の顔つきが変わり、背後に感じる気配に真紀の背中がゾクッとする。振り返ると鬼のような顔をした賢也が立っていた。

「テメェ、誰が、そんな顔したよ」

賢也は、怒って板倉の背中を蹴り飛ばした。板倉は前のめりに転んだ。

「わぁ、やめてください」

「サボってんじゃねぇぞ、このあほんだらっ。さっさと立て」

立ち上がる板倉に、賢也はまた蹴りを入れる。
ガシガシと板倉を蹴りながらエレベーターまで追いかけて行く。
ふざけ合う兄弟みたいだと、真紀は、二人の姿を見て笑った。


ここが、暴力団とつながりのある会社だとは、とても思えない。
賢也も普通だし。
働いている人達も普通だし。
広川さんや吉田さんもホストクラブで見た時は、怖かったけど、会社で話をすると、気さくで優しいし、暴力団員なんて信じられない。真紀は、郵便物を手に経理課へ戻ろうとエレベーターのボタンを押した。


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