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危険な香りに誘われて
第19章 最期の夜
郵便局へ行こうと真紀は、エレベーターを呼ぶボタンを押した。開いた扉の中に皇帝がいる。一瞬、乗るのを躊躇ったが、小さく会釈し乗り込んだ。
皇帝は、真紀を見ようともしない。

ま、仕方ない。この人が、愛想振りまくなんて、考えられないもんな。
しかめっ面をする皇帝。相変わらず、顔色が優れないように見える。

「あの・・・・。お体の調子は、如何ですか」

余計なお世話だと言わんばかりに、ジロッと睨みつけられ、真紀は、しまったと思い体を小さくした。

「代表者変更の手続きが完了した。これで、あいつが、ここの代表取締役だ」

「・・・そうですか」

力の無い声で項垂れると皇帝の含み笑いが聞こえた。

「思ったほど驚かないとは、つまらんな。賢也から聞いていたか」

そうなる話は、聞いていた。
驚くというより、ああ、どんどん引き返せない状況になっているんだと、思った。
黙っていると、皇帝が、意味深な笑みを浮かべる。

「組長から賢也を本部の幹部に登録すると連絡が入った。この話は、まだ、知らんだろう?」

「本部の幹部登録」

「これで賢也も立派な組員だ」

賢也が、暴力団員になる。本当に、なってしまうんだ。膝が震え、血の気が引いていく。怒りと悲しみが胸の奥に湧き、ギュッと掌を硬く握り締めた。

「何で・・・・・。何で、自分の子供をそうまでして、追いつめるんですか?」

「お前には、分からんことだ」

「分からないし、分かりたいとも思いませんっ」




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