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危険な香りに誘われて
第19章 最期の夜
賢也が、可哀想だ。間違っている。

「あなたは、それでも親ですか?この会社の仕事だって好きでやっていないのに、それだけでは飽き足らず、暴力団員にするなんて。酷過ぎます」

「言いたいことは、それだけか?」

「もう、賢也を自由にしてあげてください」

皇帝の腕が伸び、真紀の襟を掴むとエレベーターの壁にドンッと押しつけた。

「ひっ」

つま先がやっと着く状態、息苦しい。自分は、間違ったことを言っていない、恐怖に青ざめつつも皇帝を睨みつける。

「お前の生意気な態度は、本当に腹が立つ。いいか、あいつと一緒にいたいなら、余計なことに口を挟むな。女は、大人しく家にいろ」

真紀は、苦しさから逃れようと、震える両手を皇帝の胸に置き、押し退けた。
皇帝の手が緩み、呼吸が楽になる。よろめきながら真紀は、喉に手を置いて、大きく息をした。

「ううっ」

呻き声に顔を向けると。
腹を抑え、よろつきながら扉にもたれる皇帝の姿を目にした。
ズルッと背中を滑らし、そのまま床へ座り込む。

「社長」

真紀が、慌てて詰め寄ると一階に到着したエレベーターの扉が開き、皇帝は、そのまま後ろへ倒れた。

「大丈夫ですか」

「俺に・・・触るな」

真紀を払いのけるように腕を振り上げ、振り絞ったような声で言う。

「人、呼びます」

「いい・・・・・・誰も・・呼ぶな・・・騒ぐな・・・」

「ダメです」

真紀は、スマホを取り出して、賢也に電話を掛けた。

「賢也、お父さんが、お父さんがっ」

震える声で叫んだ。

「助けてっ」






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