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危険な香りに誘われて
第19章 最期の夜
苦しそうな皇帝の姿を見て、一番動揺していたのは、広川だった。

「社長、大丈夫ですか?すぐ、病院行きますから」

広川は、青い顔で、何度も皇帝に呼びかけた。
賢也は、冷めた目で、倒れている皇帝に冷たく言い放つ。

「こんなところにいるわけにはいきませんから。とりあえず、病院へ行ってください」

もう声を発することも一人で歩くことも出来ない皇帝の脇に腕を入れ、立ち上がらせると、二人は、支えながら地下駐車場へと連れて行った。
車には、板倉が待機している。後部座席に皇帝を乗せ終わると、広川が反対側から乗り込む。賢也は、静かにドアを閉め、真紀に振り返った。

「戻って普段通りに仕事してくれ。5時になったら、板倉に送らせる。分かっていると思うが、このことは、誰にも言うなよ」

助手席に乗り込もうとする賢也のスーツの裾を真紀が引っ張った。

「私も一緒に行く」

「来るな」

「でも」

「戻れ」

厳しい目つき。
真紀は、頷き手を離した。

賢也がドアを閉めると間もなく、車が発進。
駐車場から見えなくなっても真紀は、暫く、そこにたたずんでいた。

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