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危険な香りに誘われて
第19章 最期の夜
真紀は、賢也が、帰ってくるのをソファの上で膝を抱え、じっと待っていた。
時計は、10時を過ぎている。いくら何でも遅い。
ひょっとして、手術でもしているのだろうか。賢也を追い詰め、暴力団員にした皇帝を許せないはずなのに、賢也の父親だと思うと、大した病気じゃありませんようにと、祈ってしまう。

玄関扉の開閉音に気づき、真紀は、立ち上がった。
リビングのドアが開き、疲れた顔をのぞかせる賢也に、駆け寄り広い胸に飛び込んだ。

「お帰りなさい」

「充電してくれ」

疲れ切った声で、賢也は、真紀を抱き締めた。
レントゲン受診で簡単に発見出来るほど、父親の癌は末期状態。リンパ節や他の臓器にも転移し、医者の話では、激しい痛みがあったはずだと。もはや手の施しようはなく、薬剤投与で痛みを緩和するくらいしか出来ない。2ヶ月もてば良い方だと余命宣告された。

「お父さん、どうだった?」

心配そうに自分を見つめる真紀を見て、賢也は、ため息をついた。

「もう長くないらしい。もって2ヶ月だと」

真紀は、目をしばたたかせると賢也の胸に顔を埋めた。

「賢也、大丈夫?」

末期と聞かされても、驚きもしなかった。どうせ、そんなことだろうと思っていた。

「ああ、俺は、大丈夫だ。ただ・・・・」

「ただ?」

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